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腫瘍内ダイバーシティー生成過程のシミュレーション解析

研究代表者 
印南 秀樹
総合研究大学院大学 先導科学研究科
http://www.sendou.soken.ac.jp/esb/innan/InnanLab/

連携研究者
杉野 隆一
埼玉県立がんセンター 臨床腫瘍研究所

これまでの研究概要と新学術での研究計画

体細胞が分裂しながら突然変異を蓄積し、組織の構成が変化していく過程は、ある種の「進化」と捉えることができる。とはいえ、個体の集団を対象とする一般的な進化理論の枠組みをそのまま細胞集団に適用できるわけではない。これまで我々は進化生物学と集団遺伝学の理論研究を続けてきたが、近年はその知見を腫瘍内不均一性の生成機構解明に応用することを目的とし、確率過程に関する理論的枠組みの再構築や細胞ベースの増殖シミュレーションプログラムを開発した (Ohtsuki and Innan 2017; Iwasaki and Innan 2017)。その過程で我々は、細胞の性質に関する設定をほんの少し変えるだけで、最終的にできあがる腫瘍の形態や内部のダイバーシティーの在り方が一変することを確認した。例えば、(図上段)細胞の位置や周囲の密度によらず自由に分裂できる条件では腫瘍全体がよく混ざり合って均質になるのに対し、(図中段)細胞間の競争を導入すると部位ごとに異なる系統の細胞が優占するような不均一な腫瘍ができあがる。また、増殖を加速するドライバー変異が起こる設定においては(図下段)、パラメータによっては球形から程遠い歪な形になる場合があった。では、実際に観察される腫瘍内不均一性のパターンをよく説明するパラメータセットはどのようなもので、その下ではどのようにしてダイバーシティーが形成されていくのだろうか?
本研究の対象は、単一細胞起源の腫瘍内にダイバーシティーが創出されていくメカニズムである。理論的フレームワークはこれまでの成果として概ね完成しているため、次は実データと比較をしながら尤もそうなパラメータ領域を探索していく段階である。そのため、ひとつのがんから複数領域をサンプルし、空間データと配列データが紐付いたようなデータセットに注目する。このようなサンプリングをする研究はまだ発展途上のためTCGAなどの大規模データベースには存在していないが、2015年以降に発表された論文から個別に辿って入手可能なものがある。そこに観察される細胞ダイバーシティーの在り方を要約統計量として網羅的に数値化し、シミュレーションでそれに近い最終産物が生じるパラメータセットを近似ベイズ法で探索する。その上で、その腫瘍が時間的・空間的にどう展開してきたかを追跡し、進化プロセスを再構築する。

参考文献

  1. Niida, A., Iwasaki, W. M., and *Innan, H., 2018. Neutral theory in cancer cell population genetics. Mol. Biol. Evol. (in press)
  2. Ohtsuki, H., and *Innan, H., 2017. Forward and backward evolutionary processes and allele frequency spectrum in a cancer cell population. Theor. Popul. Biol. 117: 43-50.
  3. Iwasaki, W. M., and *Innan, H., 2017. Simulation framework for generating intratumor heterogeneity patterns in a cancer cell population.
    PLOS One 12: e0184229.
  4. Sasaki, E., Sugino, R. P., and *Innan, H., 2013. The linkage method, a novel approach for SNP detection and haplotype reconstruction from a single diploid individual with next generation sequence data. Mol. Biol. Evol. 30: 2187-2196.
  5. Fawcett, J. A., and *Innan, H., 2013. The role of gene conversion in preservation of rearrangement hotspots in the human genome. Trends Genet. 29: 561-568.
  6. *Innan, H., and Kondrashov, F. A. 2010. The evolution of gene duplications: classifying and distinguishing between models. Nature Reviews Genet. 11: 97-108.
  7. Gao, L. Z., and *Innan, H., 2004. Very low gene duplication rate in the yeast genome. Science 306: 1367-1370.
  8. *Innan, H., and Y. Kim, 2004. Pattern of polymorphism after strong artificial selection in a domestication event. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 101: 10667-10672.
  9. *Innan, H., 2003. A two-locus gene conversion model with selection and its application to the human RHCE and RHD genes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100: 8793-8798.
  10. *Innan, H., B. Padhukasahasram, and M. Nordborg, 2003. The pattern of polymorphism on human chromosome 21. Genome Res. 13: 1158-1168.

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